アラン・ケイのダイナブックの概念と同様に、情報スーパーハイウェイはわれわれの未来に決定的な指針を与えるものである。「本」というメタファーを使ったダイナブックと同様に、「道」というすでにある、それもありふれたなじみ深いものをメタファーとして使っている。ダイナブックがその魅力的な名前によって広まっていったのと同じように、情報スーパーハイウェイもイメージを想起させる優れた命名であった。
1993年9月15日、情報スーパーハイウェイ構想に連邦政府として正式に取り組むことを表明する報告書「全米情報基盤行動アジェンダ(National Information Infrastructure: Agenda for Action)」が発表された。そして、情報スーパーハイウェイに関する連邦政府の取り組み全体をNII（全米情報基盤）と総称するようになった。
「NII行動アジェンダ」の中で、今や「情報が国のもっとも重要な経済資源である」とまで言い切っている。
情報スーパーハイウェイは、サービスとしては通信と放送が融合したものであることは間違いないが、放送業界と通信業界が融合したものであるかどうかはわからない。ゴア副大統領自身がインターネットが「NIIのプロトタイプ」であるという発言をしている。
1994年3月21日、ゴア副大統領は、ブエノスアイレスで開かれたITU（国際電気通信連合）の会議で、地球的情報基盤(Global Information Infrastructure: GII)の構築において、アメリカが主導したいという希望を述べている。情報スーパーハイウェイは、NIIからGIIへという新たな展開を見せたのである。「合衆国大統領と私は、全人類の持続可能な発展にとっての必須の前提は、ネットワークのネットワークの創設だと信じる」という発言を行っている。
FDRとJFKはマスメディアが作り出した「大衆」を味方につけたが、ゴアはマスメディアが作り出す「大衆」から無縁であろうとする最初の政治家である。マスメディアの受け手としての「大衆」ではなく、情報の発信者でもある個人にかたりかけ、そのためのシステムを作ろうというのが情報スーパーハイウェイである。情報スーパーハイウェイというと、CATVの500チャンネルの実験をすぐに思い浮かべるが、ゴアのブレーンであるマイケル・ネルソンなどは、「500チャンネルでは少なすぎる。2億5千万チャンネルいる」と断言する。つまり、アメリカ国民一人にひとつのチャンネルが必要だというのだ。つまり、国民ひとりひとりが放送局なのである。
ゴアにとっては、情報と環境問題との整合性は高い。映像ネットワークが安価に使えるようになれば、時間と労力と費用が無駄になるような人の物理的な移動が減少し、結果的にガソリンなどの化石燃料の使用量も減って、化石燃料が吐き出す有害物質も減ると主張している。
アメリカは、たとえ大統領であれ副大統領であれ、いかに政治力をもっているとしても、一人の政治家の発言で全体が動くような国ではない。だからこそビジョンが必要となる。ビジョンに求心力があれば、国民も企業も動くのだ。
物質文明によって人類が生み出してしまった、ありあまる物質の一部をサイバースペースに祭り上げ、あるいは葬り去る時期が到来している。ゴアは、そのための最初の司祭なのである。
この論文は、「情報スーパーハイウェイ(Information Super Highway)」と、「全米情報基盤(National Information Infrastructure)」という二つのキーワードが、はじめてそろって示されたものとしても注目に値する。
たとえば、遠隔地の研究チームをつなぐ「共同実験室(co-laboratory)」のような組織があって、研究者たちがコンピュータ・サイエンスにかかわるプロジェクトを共同で進めることが可能になると想像してみよう。あるいは、商品をデザインする科学者なりエンジニアなりが、できあがった設計図をすぐさま製造者に送り、その製造者がそれをただちにコンピュータ化された機械に転送してデザインの具体化ができるとしたらどうだろうか。知的な利益であれ、経済的な利益であれ、そこから得られるものは驚異的であろう。
かつて、交通基盤は国際経済競争における一国の勝敗を決するものであった。良港に恵まれた国は、海洋交通という技術を利用できない国よりも豊かだった。運河、鉄道、高速道路、上下水道と枚挙にいとまがないが、これらはみな社会基盤投資であり、国家の競争力向上に驚異的な力を発揮するものであることを、われわれは経験を通じて学んできた。
今日、輸送機関の重要性は、他の要素、たとえば情報を動かす能力や情報の価値を高める能力に比べ、いささか薄れている。その一方で、われわれは膨大かつ急速に増え続ける情報量に手をこまねいている。われわれの知らないところで蓄積され、意識の外側に放置されている余剰データを、私は「エクスフォメーション(exformation)」と呼んでいるが、このような情報にも対処しなければならない。