ボクはどうやらパソコン音痴だ。もうパソコン通信を始めて一年にもなるというのに、業者や友人がセットしてくれたものを、教えられたままに進めているだけだが、それでもメッセージやメールが自由自在に読め、書き出来るからそれで十分満足はしている。何故ならこの複雑網状なネットワークに、素人も参加できることに喜びを感じているからだ。
確かに初めての者には、あのパソコン用語でまごついてしまう。やれMS-DOSだの、ディレクトリーだの、またバイナル、アプリケーション等々と友人らはいとも簡単に説明するが、こちらにはサッパリ分からず、またマニュアルの説明も解りにくいし、すぐまた忘れてなかなか会得できない。歳の所為もあるのかな(^o^)。
真実コンピュータは凄い。このパソコン通信だけでもとても奥深く、未知の世界へ案内されるようだ。また人とのコミュニケーションの大切さを教えてくれ、文字を読むこと、書くことの重要性も身をもって教えてくれる。活字ばなれだ、テレビ漬けだとマスコミは騒ぐけれど、このパソコン通信はそれを解消しパソ通メンバーを思慮深き教養人へと育てるに違いない。やがて一家に一台のパソコン時代に突入し、例えば学校からの連絡事項なども、学校と家庭とを結ぶオンラインで情報や書簡の往復交換がなされ、あの大量の印刷物の経費や無駄を削減し、併せてペーパーレス時代を迎えられるだろう。それはまたゴミを減らし、回収や焼却の重労働を省き、人間社会の環境美化に、クリーンライフに多大な功績を残すこととなろう。ボク自身、このパソコンの威力を思うとき、パソコン技術に長ける者には思わず尊敬の念を抱き、若き青少年達を一刻も早くパソコンユーザーに育て上げることを提唱したい。
さてボクがパソコン通信を始めた切っ掛けは、不要でもらった中古の９８である。ゴミにされかけたこのパソコンもボクにとっては生きがいをもたらす夢の世界へのパスポートとなった。元々ボク自身は、筋力の弱い重度障害者であるが、握力は５キロでも手首はまだまだ使え、ワープロで和文タイプの真似事をしていた。障害者の中には口に棒をくわえてパソコンタイプする者もいるが、このハイテクには思索やアイディアを練り込むことで重度障害者のパイオニアとなろう。それは生きがいの少ない彼らにとって、友を見つけて文通するのもよし、障害者プログラムで仲間の動静やエピソードを知ることも励みとなり、また２４時間態勢のヘルパーセンターにパソコン入力することで難を免れたり、更に仕事を見つけることも可能であり、大いに期待が寄せられる。
ボク自身、和文タイプや写真植字機は腕力からその操作は無理であったが、ワープロなら打てた。そして当時、税理士事務所の決算報告書や会社の業務案内、組合の名簿や要望書、販売店の帳簿整理など手掛けていたが、やがてパソコンの普及から、それらは各自で作られるようになった。それからは電算機の印刷革命が始まり、本も雑誌も、ただ文字をベタ打ちするだけでよく、ボクも印刷会社の下請け仕事に格下げとなった(^_^;)。しかし電動車イスでは、その仕事の受け渡しに精々５〜６キロ範囲しか行けない。当初は業者が毎日のように入稿回収を繰り返してくれたが、ワープロの普及は在宅の主婦の内職となり、配達の出来ない我々から仕事を奪ってしまった。そしてボクは失業を余儀なくされ、職種変更する仕事もなく、人生の張りも無くし、生きがいのない、味気ない毎日を過ごすのであったが、捨てる神あらば拾う神もあった。
実は、ワープロで入力したフロッピーが、パソコン通信で相手先に送れることを知ったのだ。早速モデムを買いＮＩＦＴＹに入会し、この宇宙交信とも想えるパソ通世界に飛び込んだ。メールやＭＳＧも実に面白いし楽しくて、もうすっかりパソコン通信の虜になってしまった。家に閉じこもりがちなボクら重度障害者にとって、パソコン通信は正に視野を広め、部屋にいながらにして人間関係を豊にする玉手箱となった。また名前や住所も判らない新しい友に、夢と希望と新鮮味が漂ってくる。もう孤独ではなくなったのだ。その上手紙なら普通、少なくとも４〜５日かかるところが、パソコン通信なら即座に届けられ、しかも送料も切手の半分以下で済む。ハガキで電報を打つようなものだ(^o^)。
早速お世話になった業者にパソ通の話題を持ちかけ、あとモデムを備えることで相互の交信ができ、重度障害者にも完全自立のチャンス到来を口説いてみたが、パソコンを扱う印刷業者でも意外とその理解がない。能書きは立派でもやれメーカーの違いとか、同機種でも相性があるとか、送信時間がかかり過ぎて不経済とか、やれバケが多いとか･･････。パソコンのメール送受信に機種も相性もないし、圧縮すれば１万字でも１分とかからない。バケなども全くない。しかも北海道や沖縄へ送っても市内通話料金の１０円で済む。だが通信を知らない自称パソコンオペには、この事実が信じられないようだった。
そんなことで、ボクはパソコン通信の就労コーナーから入力募集記事を見つけ、応募することでまた仕事を得るようになった。Ａ社には宅配便で届いた仕事を、仕上がり分だけ毎夜のように送信し、Ｂ社ではファックスで一度に５５枚も原稿が送られ、紙切れを起こしたこともあった。また同じ障害者仲間が、自分の過剰分を廻してくれたりもして、一度も会ったことのない者同士がパソコンにより深い信頼で結び付けられた。仕事をすることで、他人にはボクが生き生きと写るらしい。確かに、明日あれをせねばならない仕事がないと夜もよく眠れないし、生きる活力も湧いてこない。これは障害者も同じである。
２１世紀を目前に、わが国は福祉行政に頭を痛めている。高齢者は増えるばかりだし、少子化には拍車がかかり、交通事故では毎年１万人以上の死亡者を出している。と言うことは、その２倍や３倍の障害者を生み出していることにもなる。またその他にも成人病が猛威をふるっており、障害者施設や老人ホームも満員である。 障害者や年寄りを施設に収容する福祉政策は、もはや過去のものにすべきである。何故ならば家族とも引き裂かれ、自由も制限あるその収容生活に、多額の措置費を掛けた割に障害者も老人も満足度が低い。そして彼らには諦めに似た心境が先走っている印象がある。障害者も老人も可能な限り生まれ育った所で、身内や先輩後輩に囲まれて好きなように暮らしたいのは皆同じである。これからは施設の規則や時間に縛られない、障害者自身が生きがいを覚える完全自立生活へと向かわせ、パソコン通信や福祉機器を駆使して在宅就労や授産所・共同作業所などで仕事も持たせ、障害者自らが世帯主となって、自分の設計による、メニューによる暮らしをさせるべきである。アメリカの障害者が自立できて、日本の障害者が出来ないわけはない。今や日本は世界一の経済大国である。東京・江戸川区が試算したように、施設運営よりも住宅改造施策の方がはるかに節税で、また当事者の生きがいも高い。そして 彼らをタックスペイヤーに育てることで、国家予算に及ぼすその福祉貢献は、計り知れないものがあろう。重度の障害者も、可能な限り健常者と同じ暮らしをすることが、人間としての生き方である。
最近インターネットの話題が多いが、パソコン音痴のボクにもアメリカ、ロサンゼルスとメールの交換が出来るようになった。あの広い太平洋を越える文通が、いとも簡単に、しかも速く安くメール出来ることに、驚きと興奮を覚える。外国人も同じ人間である。言葉や習慣、文化の違いはあっても平和を愛する心は一つである。元を正せば変に誤解から、また偏見からライバル意識を高め、戦争へと繋がっているのである。人の生命は地球より重いとされる中、何故に殺戮が美化されよう。例え宗教上の違いがあっても平和共存は出来る。そのためには市民サイドの付合いが大切で、パソコン通信によるコミュニケーションが手っ取り早い。メールを交換することで、互いの理解が深まるのだ。そして各国市民が世界共通語の英語に親しみ、やがて各家庭に浸透する翻訳ソフトが、その平和な暮らしに大きな貢献をすることになろう。
ロスのその日本人は、更に日本のパソコン通信のＭＳＧも、手に取るように読めるのである。海外の日本人が衛星放送で日本のＴＶ番組が見える今日、その上パソコン通信で自分の好きなジャンルがいつでも選べることは、正に地球狭しの驚愕である。
ボク自身、障害の進行から田舎に戻ったものの、何処も電動車イスは受入れなかった。駅前の高級マンションでもエレベータが各階に止まらず、外出するには１０段の階段を登らねばならず、その介助も、先ずバッテリーから外す有様で、とても婦女子には手に負えない。当然ボクの日々の暮らしはカゴの鳥となる(^_^;)。またトイレも問題で入口ドアがもう８センチ広ければ一人で用も足せるのに、車イスが便器にたどり着けないから話にならない。家族全員が毎日世話になるトイレを、どうしてこうも粗末に扱うのか？ 日本人の悪い風習である。
そんなことから福祉工場や授産施設、療養所を訪ねて見ても、一部屋に４人も５人も、病院では８人もが同居しプライバシーもなく、また真夏の５時はまだ真っ昼間でも夕食時間である。チョイとビール１缶とて認められず、９時には消灯････では、ムショか動物園かと嘆きが出た。
そんなことでボクは施設の団体生活を嫌い、フィリピンにまで自立を求めて渡り、当時はまだ衛星放送もなく、パソコン通信も知らず、聞き取りにくいラジオ短波に望郷の念にかられたものであった。しかしこのパソコン通信により、常に日本とのホットラインが敷かれ、ニュースをはじめ株式市況やプロ野球速報も覗け、家族や友人にも電話のように連絡が取れ合い、外国に居ても不安感がないだろう。そして暖かい、広い、静かな環境の下で、安らぎの年金生活が楽しめる現実に、素晴らし人生観を見い出した。
またボクの正義感は、世界中の人民に同じ人間として、その生活格差や自由制限、環境整備に、このパソコン通信が救いを差し伸べてくれるものと信じる。それは曾てのソ連邦のような秘密主義で、閉鎖的で、自由のない独裁国に、パソコン通信を通じてその市民に現実の世界情勢を知らせ、民主主義とは何か？ 市民生活とは何か？ また人間としての幸福は何か？ を自ら学ばせ、追求させ、人生の醍醐味と世界平和の意義を学ばせたい。衛星放送と同様パソコン通信も国境を無くさねばならない時代である。そして世界中の障害者が手を取り合って、友好は勿論その福祉政策や福祉機器の状況、医療やリハビリの研究課題から交流大会まで、あらゆる情報の交換が望まれる。
願わくばパソコン通信が２１世紀の弱者救済の女神となり、且つ奴隷解放のリンカーンに甦って欲しいと祈願するものである。